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広島高等裁判所松江支部 昭和47年(く)8号 決定 1972年11月27日

少年 D・I子(昭三二・一・八生)

主文

原決定を取り消す。

本件を鳥取家庭裁判所米子支部に差し戻す。

理由

本件抗告理由の要旨は、少年は今後真面目に働いて、病弱な祖母や幼い弟妹の面倒を見て行きたいので、もう一度在宅で更正の機会を与えて貰いたい、というのであつて、原処分の著しい不当をいうのである。

そこで、原審記録並びに当審の事実調べの結果に徴して検討するに、少年は昭和四七年三月中学を卒業し、○○○○○○株式会社の工員となつたが、同年五月一五日頃友人の家で男女雑居寝をして不純な異性交遊をし、同月一七日頃から会社を休み、無断外泊をしていたもので、同年六月三〇日原審で試験観察に付され、自転車商○内○子方に補導委託されたが、同年八月一三日頃盆休みに帰宅した際、右補導委託先に戻らず、穏岐島へ職を探しに行つたり、或いは友人の紹介で他人の家に泊めてもらつたりしていたものであり、家庭には両親がなく、病弱の祖母と中学生の妹および小学生の弟がいるだけで、家庭の保護能力を欠いている点を考慮すると、原審が少年を初等少年院に送致したことも首肯できないわけではない。

しかし、少年は漸く今春中学を卒業したばかりのもので、中学時代には怠学や友人と喫茶店へ出入りして学校の補導を受けたことがあるほかには非行歴がなく、本件は両親のいない淋しさから生じた一過性の非行と認める余地もあり、少年の非行性は必ずしも根の深いものとは思われない。特に原審の少年院送致の処分にショックを受け、本件非行当時の生活態度を反省するとともに、祖母、弟妹に対する責任を自覚し、真面目に働いて家族の支えとなりたい旨を強く訴えている。

右事実から判断すると、折角少年に芽生えた更正意欲を助長させるためにも、今ひとたび少年の希望を容れて家庭に戻し、少年の更正意欲が真剣なものであるか否かを見極めたうえでその処遇を決定することが相当と思われる。その意味において原決定は、その処遇が不当に重いとのそしりを免れないものというべきである。本件抗害はその理由がある。

よつて少年法三三条二項、少年審判規則五〇条に則り、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 西俣信比古 裁判官 後藤文彦 小川英明)

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